令和4年夏期入峯修行⑧笙の窟『峯中護摩』~直会
先日来、本山である金峯山寺の伝法灌頂会が五年ぶりに執行され、お手伝いに帰山させて頂いた続きに当山の報恩謝徳修行に入行させて頂きましたので、ただでさえ遅くなっているブログが更新できずにおりました。
大普賢組の記事もアップされましたのでラストスパートでお届けしたいと思います。
大普賢組と合流するころには雨も上がり、昼食のおにぎりを頂いたところで下山に向けて出発です!
・・・と、後ろの方から「キャッ!」という声が・・・
大普賢組の先達を務めていたお弟子さんが滑ってこけてました・・・
我々山上組と合流して緊張が解けたのかもしれませんが、「百里行くものは九十里を半ばとす」のことわざ通り、最後まで気を抜いてはいけません。
お山での遭難や事故は登りよりも圧倒的に下りで多いのです。
かくいう私も気を付けないとコケるのですが、今年は目の病気のことがあって却って慎重になったのか雨で滑りやすい行程でしたがいつもより安全に下ってきたように思います。
物事悪い事ばかりではないようです(笑)
幸い大きな怪我などにはならず、順調に小普賢岳のコルに到着して一休み。
途中、霧が晴れて眼前に小普賢が見えたりもしたのですが、説明している間にガスがかかってしまったりで残念ながら写真は無し・・・(´・ω・`)
ここから小普賢岳の中腹に上り返すのが今回の行程最後の登りとなります。
皆で声を出しあっての最後の掛け念仏が霧が流れるお山に響きます。
さてその頃、大普賢組の別動隊。
大普賢組は同じルートを往復するので、体力に自信が無い人は笙の岩屋から先、頂上を目指すのではなくて体力に応じたお山を行じることが出来ます。
今回は参加者一名と奉行一名が別動隊に。
その年によって笙の岩屋で止観や勤行をしたりすることもありますが、今年はゆっくりと登れるところまでお山を行じて頂いたようです。
写真は石の鼻の岩場での様子。
霧に煙る山々が向こうに見えています。
方向的には奥駈けのルートに有る孔雀岳方面かと思いますが、頂上に行かなくてもよい山の行をなさって頂いたと思えるお写真です。
そうこうしている間に本隊は文殊岳(日本岳)のコルに下って行く難関の階段を下って行きます。
晴れて乾いている時でも階段の足場自体に傾斜がついていたりして下りにくい階段ですが、雨で濡れていると尚更よく滑って危険です。
特に一ヶ所、階段を途中で継いである箇所が材質のせいなのかとにかくよく滑ります。
後進に「此処は良く滑るから注意して!」と伝達するも言ってるそばからスリップする人が数人・・・
階段の終の方なので大きな事故にはなりませんでしたが、手すりの鎖も倒れてしまっていて頼るものが無いので本当に気を付けないといけません。
文殊岳のコルを過ぎると笙の岩屋まではもうすぐですが、まだまだ気を抜くことは出来ません。
この先は落石の要注意エリア。
急な岩場を下って行くので、上の人が石を落とすと下の人が大変危険です。
石を落とさないように気を付けて慎重に下らせて頂くと鷲の窟に到着します。
役行者のお姿を描く時に必ずと言って良いほど一緒に描かれるのが役行者がお座りになる烏帽子のように尖った岩場です。
そのモデルとなったとされるのが「鷲の窟」ヒサシように大きく突き出た岩が鷲のくちばしの様に見える事からこの名前が有ります。
今回は写真が無かったのですが、過去のブログに載せていますので是非ご覧ください。
鷲の窟の隣、少し登った先に文殊岳山腹の断崖に大きく口を開けた窟屋が表れます。
ここが大峯75靡中62番目の靡「笙の窟」です。
大峯峯中でも屈指の窟で、古来より多くの行者が籠りの行を行ってきました。
中でも9月9日から正月3日までの百日間、五穀を断って厳寒の修行を超えた行者は晦日山伏と呼ばれて大変な尊崇を集めました。
古くは日蔵上人が良く知られますが、近年でも金峯山寺の柳沢慎吾師や護持院喜蔵院の中井教善住職などがこの笙の窟で修行をされています。
例年この笙の窟で峯中護摩をお勤めさせて頂いて入峯修行のお礼と修行者の行願圓満をお祈りさせて頂いています。
その際、一緒に修行を支えてくれたお杖を護摩の火でお加持させて頂きます。
(↓杖加持の写真は過去のものです)
行者が持つ杖は「金剛杖」といい、上に五輪の塔婆を表す筋が入っています。
この杖は峯中で万が一命を落とした時には自身のお墓となるものであり、危険な下りや辛い登りには修行を助けてくれる無くてはならない法具です。
かつては大峯入峯から帰って来ると近在の人が集まってきて使用した杖や草鞋を頭や肩に押し当ててお加持を受けたというようなことも有りました。
現在でも、道中安全のお守りに常に車に入れているとか、親しい人が亡くなった時に棺に入れてあげるという人も多く有ります。
四国遍路のお杖もそうですが、一緒に修行を重ねてすり減って短くなったお杖はその人にとってかけがえのない宝物です。
笙の窟からは、赤茶色の木肌が特徴的なシャラの木の間のなだらかな道を小一時間ほど下れば旧和佐又スキー場のゲレンデであった広場へと到着します。
此方で一同振り返って、修行させて頂いたお山にお礼の法楽である「拝み返し」のお勤めをさせていただきます。
このころにはお天気も回復し、濡れた装束もすっかり乾いて、晴れ間ののぞく中での御法楽となりました。
拝み返しの登山口から整備された道を暫く下ると旧和佐又ヒュッテのあった場所に出ます。
長らく登山者や修行者に愛された小屋でしたが、残念ながら営業を終了され、今は建物の解体も終わってすっかり広場になってしまっています。
登山者用の駐車場はさらにもう少し下ったところに有るのですが、お世話になるマイクロバスが許可をもらってここまで登って来てくれているので、車を汚さないようにここで履物を替えてバスに乗せて頂きます。
路線バスを利用する場合はバス停のある国道まで延々とアスファルトの道を下るのですが、バスでは睡魔と戦っているうちに国道に到着です。
さらにバスは直会会場である名湯「入之波温泉 山鳩湯」へと我々を運んでくれます。
国道169道を離れ大迫ダムを回り込むように進めば山鳩湯まではもうすぐです。
一刻も早く温泉に浸かりたいところですが、先ずは食堂にお祀りされているお不動様に御法楽。
当山のお札もお祀りして頂いていますので満行のお礼と山鳩湯の商売繁盛を御祈願させて頂きます。
御法楽を終えたらお楽しみの温泉へ。
加温も加水もされていない源泉がドバドバ贅沢にかけ流されています。
この温泉のおかげもあってか皆ひどい筋肉痛には悩まされたことが有りません。
しかも今年は珍しく湯泥が上がって来たとかで湯舟には沈殿した成分が・・・
益々効能アップのお湯にゆっくり浸からせて頂きました。
(ぬる湯ですが成分が濃いので湯あたりには要注意です!)
さっぱりした後、先ずは今回の修行の遂行証をお一人づつにお渡しさせて頂きます。
当山での入峯は講社の正規入峯とお認め頂いてますので回数を重ねて頂くと大峯山寺護持院である東南院から先達の位階をお授け頂くことが出来ます。
今回の新客さん達もいつかは新客さんを導ける先達さんを目指して精進して頂きたいと願いながら遂行証をお渡しさせて頂きました。
遂行証の授与が終わればお待ちかねの直会です。
乾杯の発声と共に、鴨トロやタタキ・川魚の塩焼きなどと共に毎年楽しみにしている名物の鴨鍋を頂きながら賑やかに杯を重ねます。
やがて慈唱院入峯名物「一人づつ感想」の時間に。一人ひとり様々な思いや感想をもってお山を行じて頂いたことが伝わる大切な時間です。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎてゆき、帰路につかなければならない時間が来てしまいます。
毎年山鳩湯の皆さんには遅くまで我儘を聞いて頂いて、美味しく楽しい直会を開催させて頂いて本当に感謝です。
お見送りを頂いてバスが出発すると・・・さっきまでの賑やかさは何処へやら・・・。
やがて誰の物とも分からないイビキが響き始めます。
直会ではテンションも上がって元気でしたがそりゃあみんな疲れてます。
お寺までの2時間弱・・・暫しのお休みです。
何度かウトウトとしているうちに気づけば見慣れた風景が車窓に映ります。
重い体を起こしながら全員で本堂へ。
御本尊様への満行のご報告と御礼の御法楽が入峯修行最後のお勤めです。
あとは各々の日常にお戻り頂き、里の修行に励んでいただく事になります。
ご参加頂いた皆様、お力添えいただいた皆様本当にありがとうございました!
来年もご一緒出来ますように!
・・・おっともう一つ大切な夏期入峯修行が。
今年参加出来なかったお弟子さんや講中の有志の方が入峯修行の安全を2日にわたって本堂に集まってお祈りして下さいました。
こちらも立派な入峯修行。ありがとうございます!
というわけで、八回にわたってお届けした夏期入峯修行のブログもこれにて満行です。
ご拝読有難うございました!
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