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令和2年 夏期入峯修行 ④

行者還岳山頂との分岐を北に進めば、七曜岳へと向かう奥駈け道。暫く左手にバリゴヤの頭を見ながら尾根を歩きます。
尾根を下ると「みなきケルン」のある鞍部につきます。

昭和40年5月に某大学ワンゲル部の一年生が弥山を目指して行動中に疲労困憊して命を落とされた場所に立つ遭難供養碑がみなきケルン。

奥駈の靡とは関係ありませんが、峯中遭難の諸霊を供養するためにご廻向するのが習わしです。
皆それぞれに飴やクッキーなどをお供えして供養させて頂きました。

みなきケルンから少し下ると絶好の休憩ポイントの西側が開けた尾根に出ます。
それにしても天気予報は良くなかったんですが青空の中を歩かせて頂いて有難い限りです。ただ、雲の出方や湿度から午後からは夕立が気になるので出来るだけ急ぎたいところですが・・・
参加者の一人が膝の痛みを訴えているのであまり無理は出来ません。

此処からは岩場や梯子のアップダウンが続きますし、大普賢から和佐又まではひたすらの下り。膝を痛めた人間には厳しいルートです。

とはいえ、お山に入れば一人一人が行者です。

先達として痛めた時の歩き方を指導したり、休憩やペースを気には掛けますし、同行で助けあいながら進みますが、最終的には自分の状態を受け入れて心と体を整えながらお山を行じて行くしかありません。

元気な時より不調な時の方が不思議とお山の声も自分の心とも向き合う機会が多いので不調を起こすことも其れはそれで大切なお行になります。

と言うわけで、休憩を終えて出発。

ミズナラの林をジグザグと進み、尾根を巻いて登るとミヤコザサの道となります。
ここからはキレット状の谷を登りあげて、大きな岩壁にかかる梯子を上っていかなければいけません。
この梯子も経年劣化で所々番線が外れていたり、腐りが来ている箇所があったりと油断できません。
この梯子が無かった当時の先達衆は、さぞ難儀しながらこの峯を行じた事であろうと想いを馳せながら、一歩づつ階段を攀じて行きます。

梯子を上り終えて少しなだらかな尾根に出ればすぐ右手に無双洞から和佐又へ向かう分岐に出ます。
ここまで来ればあと少しで七曜岳ですが最後に鎖場をひと登りしなければいけません。

七曜岳は奥駈峯中数少ない頂上に立つお山です。
その狭い頂上は岩が剥き出しになっていてこの岩に向かって勤行を上げます。
碑伝が鎖場側の朽木に掛けられているのでこちらを拝しがちですが、拝所はあくまでも山頂の磐座です。

七曜岳の名前は星宿の「七曜(月・火・水・木・金・土・日の各星)」からですが、信仰としては七曜ではなく北辰(北極星)と北斗七星を拝んでいたようです。
古くは「北斗七星の多和」と呼んだと、先述の古老から伺いましたが、どうやらこの多和は鎖場手前の特徴的な磐座の場所のようです。
いずれにしても人の運命を・寿命を司る星宿の信仰が有った靡きという事に間違いはないようです。


また、山頂からはぐるりと大峯の山々を拝することが出来ます。
南に目をやれば超えてきた行者還岳がコブのように見え、遠くに弥山八経の山並みが聳えています。
そのまま西から北に掛けてはバリゴヤの頭から稲村岳。山上ヶ岳のお花畑も拝むことが出来ます。
登山道を隔てて北東方面に目をやれば大普賢岳から和佐又側の小普賢岳・文殊岳(日本岳)のいわゆる普賢三兄弟の姿が目の前に迫ります。

その様な事から山頂の磐座を「国見石」ともいい、この山の事を「国見岳」とも呼びました。
登山地図では七曜岳北側、稚児泊り手前の1,655m峯を国見岳として記載し、そこからさらに北の水太覗きから至る小ピークを弥勒岳と記載していますが、修験の伝承では七曜岳と国見岳は別の山として伝えていません。
また地図上の国見岳の辺りを「弥勒岳」として西側を巻く時に山頂を遥拝するのです。

よって、地図上の弥勒岳は修験の伝承としては名も無き小ピークという事になります。
修験を志して奥駈け道を行じる諸師の中に、先達の伝承と地図上の記載に矛盾を感じた方も居られると存じますが理由としては以上のように、本来一つのものであった「七曜岳」と「国見岳」が別の山として認識され、そこに「弥勒岳」の位置を国見岳の北方とした時に件の小ピークが「弥勒岳」と比定されたものと考えます。

よって、七曜岳と七ツ池の間に架かるこの橋を「国見の念仏橋」と呼ぶのは実にそう言った理由からなのです。
現在は安全な絶景のビューポイントなっていますが、昔日は断崖に丸木が渡してあるだけで、実に念仏を唱えながら渡った難所であった所です。

さて、次回は稚児泊りを経て大普賢岳を目指します。
もうしばらくお付き合いください。

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