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令和2年 夏期入峯修行 ⑤

七曜岳から前回ご紹介した国見の念仏橋(写真は以前のものです)を進んで七ツ池を目指します。

因みに奥駈け峯中にはもう一ヶ所、杖捨てを過ぎた釈迦ヶ岳の手前にも念仏橋と呼ばれる場所が有りますが、こちらは両側が切り立った崖の馬の背で、風の強い日などは本当に念仏が口をついて出る場所です。

念仏橋を過ぎると少々の岩場を超える事になります。
まずは鎖の垂れた岩場を下りますが、ここでは安全の為に杖を受け渡しして両手を使って下ります。
鎖場を降りれば今度はすぐに岩場を横掛けします。
木は茂っていますが岩場の反対側は谷になっているので用心して進みます。
最後の岩には木の梯子が掛かっていますが、経年劣化であまり信用出来ないので、梯子を使わずに岩場側を降りれば通常の登山道に戻ります。
ここから少し下れば「鬼の釜」とも「七ツ釜」とも呼ばれる拝所「七ツ池」に到着です。

関西地方に大きな被害をもたらした平成30年の台風21号は、大峯峯中にも大きな影響を与えました。
大変にシンボリックな存在であった脇の宿の大木は途中から折れてしまいましたし、奥駈け道の至る所でも倒木が行く手を塞いでいます。
ここ七ツ池のお鉢部分にも沢山の倒木が倒れていました。

「七ツ池」は直径50メートル程の窪地で深さは20メートル近く有るでしょうか。
池とはいっても見る限りその底に水の溜まっている様子は有りません。
地質学的には石灰岩が雨水によって溶けて出来た空洞が崩落したドリーネという事のようですが、修験の伝承では一ノ垰ブログ令和2年夏期入峯修行②参照)の所でも触れた聖宝理源大師が退治した大蛇を封じた場所の一つとされています。

七ツ池は靡では有りませんが、そのような謂れから勤行を上げさせて頂く拝所となっています。
また、昔日には「鬼の釜巡り」と言ってこのお鉢を巡るような事もしていたと古老から伺ったことも有ります。

この七ツ池から稚児泊りの辺りにかけては、苔むす岩が大変綺麗な場所です。
それにしても、心配通り少しづつガスが出てきました。
夕立の雨は仕方ないですが、雷だけは勘弁してください・・・と祈るばかりです。

七ツ池の苔広場から一段登って下ると突然開けた広場に出ます。
此処が第60番の靡「稚児泊り」です。
山中の鞍部で三方を山に囲まれ、西の谷側に開けた展望をもつ芝地でとても綺麗な所です。

勤行を上げさせて頂いて靡きの説明・・・
と行きたいところでしたが、一般登山の方が休憩されていたので・・・
「順峯の際にはここから先に薩摩転げ・屏風の横駈け・内侍落とし等の難所が待ち構えているため、侍従の稚児を休ませた場所」・・・と、当たり障りのない説明を。この靡きの秘説は文章にも出来ませんので、ご一緒出来た時に譲ります。

とは言え、先ほどの説明は嘘ではなく、実際にここからは難所や登りが続くので我々もこちらで休憩。


にしても、こちらで休憩されてた方も、七曜岳で出会った方も大普賢周回コースでこれから七曜岳から無双洞方面に行かれるとか。
このルート、距離は大したこと無いですが、凄まじい下りと登りを伴う足場の悪い難コース。時間と夕立が心配だなぁと思いながら「無理しないでくださいね」と一旦お別れしました。

雲行きも気になるところなので、大好きな稚児泊まりですがそうゆっくりもして居られずに出発。
足を痛めた同行もいよいよ辛そうですが、大普賢までのひと登りを頑張ってもらわなければいけません。ペースを落としながら一歩づつのお行です。

薩摩転げを木の根に捕まりながら登れば屏風の横駈け。
あまり鎖に頼りすぎないように気を付けながら進みます。
この辺りは山上の裏行場や奥駈けを経験した事のある者は慣れたものですが、慣れない同行は多少難儀する所です。

岩場を登り終えて振り返れば大普賢がもう目の前に見えていますが、登りに必死のみんなはそれどころではありません。

そこから地図上の国見岳の頂上を西側にぐるりと巻きながら登っていくと石楠花の群落に出会います。
この辺りが伝承の第61番靡「弥勒岳」の拝所で、地図上「国見岳」とされている山の頂上に向かって勤行します。
恐らく、超えてきた内侍落としや薩摩転げ一帯の岩場や岩頭がかつては弥勒岳の行場として捨身など何らかの修行が行われていたのではないか、その修行中に起こった事象によって「薩摩転び」や「内侍落とし」の名前がついたのではないかと考えていますが、確たる資料や伝承も無く想像の域を出ません。

岩場が終われば今度は湿った土に満天星躑躅や五葉躑躅の根が剥き出しの急登。
木にお礼やお詫びを言いながら足場にさせて貰ったり手すりにさせて貰ったりしながら登らせて頂きます。

尾根に出ると水太谷を挟んで目の前に大普賢岳が姿を現します。
しかし、この辺りから雷の音が・・・。
写真後方の和佐又側は晴れ間も覗いていますが、尾根の反対側では真っ黒な雷雲が超えてきた行者還岳を包んでいます。
なので皆の顔が絶景にも拘らず心配顔・・・。

とは言え、天気もご本尊のお計らい。
お任せをして行じるしかありませんが、(こちらには来ない!)と言う妙な確信が有ったので私はしっかり笑顔です。
ここから地図上の弥勒岳の小ピークを巻いて、尾根の西側の緩やかな長い登りを進みます。

8月の後半、下では猛暑が続いていましたが、お山は秋の装いが着々と進んでいます。
楓は一部が色づき、名残りのトリカブトが急いで花を咲かせ、初夏にガクアジサイに似た花を咲かせるオオカメノキには真っ赤な実が色づいています。

光っては数秒後に「バリバリ」と音を轟かせる雷に追われるように進んで、一面がミヤコザサに覆われた尾根筋に出るとそこが「水太覗き」です。

水太覗きは峯中の絶景ポイントの一つで、東に開けた尾根からは水太谷に大普賢から和佐又へ連なる山並みが一望できます。
これから進む和佐又方面には薄日が差していますが、先ほど超えて来た右手南方に見える七曜岳には雨雲が掛かってすっかり雨の中です。
一足違っていたらと思うと・・・神仏、お山に感謝です。

ここまで来れば大普賢岳は目の前。
二回目のお昼におにぎりを頬張って、足を痛めた同行のメンテナンス。
この先は毎年女性陣も修行してくれているルートなので、足を痛めた同行には副奉行と薬事奉行を付けて一足先に和佐又を目指して出発してもらいます。

さて、次回は大普賢岳から和佐又へ。
本隊組の最終回、令和2年 夏期入峯修行⑥に続きます。


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