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令和4年夏期入峯修行④鷲の巣岩~西の覗き

お約束通りのスピード更新です。
今回は西の覗きについて少し詳しく私見も交えながら書いてゆきたいと思います。

鐘掛岩を過ぎて暫く進むと鋸の歯が幾重にも重なったような岩の斜面が表れます。
その岩場の途中から右手の尾根に抜ける道が現在でもうっすらと残っていますがこれが旧来の「西の覗き」へと続く道で、事故が続いたため現在の覗きの場所に移されたと伺っています。
一度行ってみましたが、覗きそのものより岩場の先端に出ていく時が危ないです。
西の覗きを撮影するためにテレビのクルーなんかはこの場所から狙う事が良くありますが、一般の修行者は立ち入らない方が無難だと思います。

岩場を下った鞍部からは旧の西の覗き岩(右側の断崖)と、その左側に聳える鷲の巣岩(鷹の巣とも)を望むことが出来ます。

昔、山上参りに来ていた男が行を侮り神仏を誹る言葉を吐いたところ、大鷲がその男を攫って鷲の巣岩の頂上に置き去りにしてしまいました。
絶壁を降りる事も出来ずに途方に暮れている所に行者が表れ、神仏を誹り御山を侮った事の罪を諭します。

男は懴悔して許しを請いますが人間の姿のままでは岩場を下ろすことが出来ません。
そこで行者は呪術によって男をカエルの姿に変えて吉野の金峯山寺蔵王堂まで連れ帰ります。

その男を金峯山寺山内の僧侶、修験者が増長の心を戒め、懴悔の心を説き戒律を授け、祈りによって人間の姿に戻してやります。

この伝承を再現したのが毎年7月7日に金峯山寺蔵王堂で行われる奇祭「蛙飛び行事」の謂れです。

鞍部を過て再び岩場を少し登るとテレビなどでも取り上げられることが多い「西の覗き」に到着です。
この行場は「捨身修行」の道場です。

捨身修行とはわが身をなげうって修行に没入する事です。
その為には娑婆での地位や名誉、肩書などを捨て去ることが必要です。
更に今まで知ってと知らずとに関わらず積み重ねてきた罪障を懴悔する事が求められます。

「西の覗き」は正に娑婆での己を捨て去って懴悔滅罪し、生まれ変わって修行に臨むための行場なのです。

西の覗きでも修行が終われば歌詠みが行われます。

「ありがたや 西の覗きに懴悔して 弥陀の浄土に入るぞ嬉しき」

この歌詠みの詩には鐘掛岩の秘歌ののような隠れた意味は有りません。
しかし、意味を味わうにつれ深い教えが示されていることに気づきます。

そもそも、大峯が何故に「弥陀の浄土」とされるのでしょう。
弥陀の浄土=極楽浄土であります。
確かに素晴らしい景色や豊かな植物が心を洗ってもくれますが、汗だくで登り下りを繰り返し、虫に刺されて風呂にもろくに浸かれない。
我々が思い描く「極楽」とはいささか趣が違います。

では本来「極楽」とは??
なにが「極めて楽」な世界であるか、我々が後生を極楽に求める事は本来何を目的としているのかを考えれば正に大峯峯中は極楽世界であり、更に深めて修験の説く即身即仏の境涯に至れば自然法爾の曼荼羅世界であることまでも実感できるのでありましょう。

私なぞはとてもその境涯に至る事は出来ませんが、醍醐寺の先徳であられる斎藤明道大僧正が書き著されたご本に斎藤大僧正が大峯にて詠まれた歌をいくつかご紹介されています。
その中の一首にとても素敵だなぁと思って大好きな詩が有りますのでご紹介させて頂きます。

「我もまた 峯の仏かこれやこの 両部曼荼の一会に座せり」

いつか私もこのような気持ちで峯に座してみたいなぁと憧れる思いです。

歌詠みを終えて「西の覗き」での捨身・懴悔滅罪の修行が終わります。
懴悔滅罪と書きましたが「懴悔の力のみよく積罪を滅す」と言われます。

懴悔の始めは内省です。過去の自分のありさまを思い返す事。
しかしこれだけでは反省であり「滅罪」に繋がる「懴悔」にはなりません。
懴悔の後には必ず「発心」が有る事こそが大切なのです。

「○○な事をしてしまった」と反省したならば「今度は○○の様なことはしない自分であろう」「○○を素直に謝ろう」と犯した罪をより良い自分になる為の糧とすること。
その事によって「罪障」は「発心の種」へと変わります。この時初めて「懴悔滅罪」が成り立つのです。

「神仏を大事にするか!」「家族を大事にするか!」「仕事を疎かにするな!」・・・
脅されながら西の覗きで先達から諭されたことは、実は笑い話で終わるものでは無く、滅罪発心の種を植え付けられたのだという事を知って置いて頂きたいと思います。

さて、少し堅苦しい内容になってしまいましたが次回からはいつもの調子に戻って入峯の様子をお伝えしたいと思います。今暫くお付き合いください!

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